TellAria

罪と贖いの法廷

依頼人の意志を尊重するか、信じる真実のために戦うか、弁護士は迫られる。

Beginning

拘置所の接見室は、いつも同じ匂いがした。消毒液と、埃と、それから、誰かが呑み込んだまま吐き出せずにいる言葉の匂いだ。相馬圭介は、傷だらけのアクリル板越しに座る男を見つめた。桐生隆一。五十八歳。町工場「桐生金属工業」の三代目社長であり、いまは現住建造物等放火、そして殺人の被疑者として、この鉄格子の内側にいる。

事件は一か月前の深夜に起きた。老朽化した工場が炎に包まれ、朝には黒く焦げた鉄骨だけが残った。焼け跡からは一人の遺体が見つかった。沢井茂。四十年にわたって桐生家の旋盤を回し続けた、老いた職人だった。検察は桐生が保険金を目当てに火を放ち、逃げ遅れた沢井を死に至らしめたと主張していた。動機はある。工場は五千万の負債を抱え、来月には手形の不渡りが確実だった。桐生には、火をつける理由が、痛いほど揃っていた。

「先生」と桐生は言った。その声は不思議なほど穏やかだった。まるで、長い旅の果てにようやく降りる駅を見つけた者のように。「私がやりました。灯油をまいて、火をつけた。それだけです。それ以上、あなたが何を調べる必要があるのでしょう」