TellAria

終末の灯台守

希望を捨てて灯を消すか、無意味でも灯し続けるか、灯台守は迫られる。

Beginning

灯台守の一日は、灯を確かめることから始まる。それだけが、私に残された祈りの形だった。

目を覚ますと、まず天井の染みを見る。染みの色で、その日の空の色がわかる。今朝は鉛のような灰だった。もう百年、この星の空は青を忘れている。〈大いなる退去〉のあと——人類が方舟の船団に乗り、灰に閉ざされた地表を捨てて、軌道の彼方へ、あるいはもっと遠い光の粒へと旅立ってしまったあとから、空はずっとこの色だ。海もまた、生き物を一匹も宿さぬ黒い水になった。潮が岩壁を舐める音だけが、かろうじて世界がまだ動いていることを教えてくれる。

寝台を出て、私は儀式のように水を量る。雨水を濾した一杯を、半分だけ飲む。残りは灯室の花に。花といっても、ハルが遺した造花だ。褪せた布の薔薇。生きた植物は、この島にはもう一本もない。私はその偽りの赤に、毎朝おはようと言う。狂気の一歩手前で踏みとどまるための、ささやかな作法だ。声に出して誰かに語りかけなければ、人は自分が人であることを忘れてしまう。ハルはそう言っていた。だから私は、花にも、壁にも、死んだ海にも語りかける。