TellAria

記憶喪失の暗殺者

過去の自分に戻るか、新しい人間として生きるか、暗殺者は迫られる。

Beginning

目が覚めたとき、俺は自分が誰なのかを知らなかった。

天井のしみを数えるほど長く、俺はそこに横たわっていた。安ホテルの一室だった。黄ばんだ壁紙、明滅する蛍光灯、窓の外を絶え間なく通り過ぎる車のヘッドライト。時計の針は午前三時を指している。だが、その「三時」が何を意味するのか、俺には見当もつかなかった。昨日の三時に何をしていたのか。一週間前に、一年前に、俺がどこで、誰と、どんな言葉を交わしていたのか——記憶の抽斗は、こじ開けようとするたびに空っぽの音を立てて閉じた。

自分の名前すら思い出せない。その事実に、不思議と俺は取り乱さなかった。むしろ、取り乱すべきなのに取り乱せない自分に、背筋の冷えるような違和感を覚えた。まるで、恐怖という感情そのものを、どこかに置き忘れてきたかのように。