砂漠の隊商
近道の危険を冒すか、安全な遠回りを選ぶか、隊商長は迫られる。
Beginning
地平線まで、うねる、金色の、砂の海。その、果てなき、大砂漠を、四十頭の、駱駝から成る、一隊が、ゆっくりと、進んでいた。積み荷は、東方の、絹、香料、そして、貴重な、岩塩。これらを、遥か、西の、都へと、運ぶ——それが、隊商長ラシードに、託された、務めだった。齢五十。半生を、この、砂漠に、捧げてきた、ラシードの、皺深い顔には、砂と、陽射しの、刻んだ、無数の、年輪が、あった。彼は、駱駝の背から、じっと、行く手を、見据えていた。喉が、渇いている。皆が。そして、水は——もう、幾らも、残っていなかった。
旅は、当初の、予定より、大きく、遅れていた。数日前、想定外の、砂嵐が、隊商を、襲い、水袋の、幾つかを、失い、進路をも、大きく、狂わせたのだ。このままでは、次の、水場に、たどり着く前に、水が、尽きる。隊商の、命運は、風前の、灯火だった。だが——ラシードには、一つの、望みが、あった。この、地方に、古くから、伝わる、伝説。灼熱の、大地の、どこかに、隠された、"緑玉のオアシス"。清冽な、水を、こんこんと、湛え、緑、豊かに、生い茂るという、幻の、楽園。それが、実在するなら——そして、そこへ、たどり着けるなら。隊商は、救われる。
「隊商長。……あれを、ご覧ください」。若い、隊商員の、ナージが、南の、空を、指さした。ラシードの、目が、細められる。地平線の、彼方。禍々しい、褐色の、壁が——巨大な、砂嵐の、群れが、ゆっくりと、こちらへ、迫って、来ていた。今度の、砂嵐は、これまでの、比では、ない。あれに、飲み込まれれば、隊商は、ひとたまりも、ないだろう。時間は、なかった。あの、嵐が、来る前に。水の、尽きる前に。何としても、緑玉のオアシスへ、たどり着かねば、ならない。