TellAria

海女の真珠

真珠を手にするために命を懸けるか、伝統を捨てるか、少女は迫られる。

Beginning

海鳴島の朝は、いつも潮の匂いから始まる。潮里は十七歳、この島に十六代続く海女の家系に生まれた娘だった。夜明け前の岩場に立ち、彼女は黒々と広がる海を見つめていた。かつてこの海は、島に富をもたらした。浅瀬の真珠貝が、乳白色の珠を惜しみなく産み、島の女たちは素潜り一つで一家を養った。だが、その時代は終わった。海水温が上がり、赤潮が幾度も浦を襲い、真珠貝は死に絶えた。若い者は本土へ去り、島に残るのは老人と、数えるほどの家族だけになっていた。

潮里の家も、例外ではなかった。父・海一は、五年前に死んだ。島の南、〈竜の淵〉と呼ばれる深海の断崖——そこに眠るという伝説の黒真珠、〈龍の涙〉を求めて潜り、二度と浮かんでこなかった。〈龍の涙〉は、ひと粒で家を、いや島を丸ごと買えるほどの値がつくと言われる幻の珠だった。だが〈竜の淵〉は、素潜りの海女が到達できる限界の、さらに底にある。父も、その祖父も、挑んだ者は皆、海に呑まれた。父の亡骸すら、島には戻らなかった。

そして今、祖母の海江が死の床にあった。島最後の〈大海女〉、六十年をこの海に捧げた女。その心臓が、もう長くはもたないと医者は言った。本土の大きな病院で診てもらえば、まだ助かる見込みはある。だが、その費用は、いまの潮里の家には途方もない額だった。祖母を救い、そして枯れゆく島に再び命を吹き込む——その両方を叶えるものは、この世にただ一つしかない。〈龍の涙〉だ。父の命を奪った、あの黒い珠。