TellAria

最後の路面電車

過去にしがみつくか、変化を受け入れるか、人々は迫られる。

Beginning

その、路面電車が、走るのは、今日で、最後だった。海沿いの、小さな、地方都市を、六十年にわたって、走り続けた、緑色の、二両編成。だが、地下鉄の、開通と、乗客の、減少に、抗えず、〈潮見(しおみ)線〉は、この、日曜日を、もって、廃止される、ことに、なった。運転士の、田村は、車庫で、最後の、点検を、しながら、その、古い、車両の、木の、床を、そっと、撫でた。四十年。この、電車と、共に、生きた、歳月だった。

田村は、六十三歳。妻の、君子を、五年前に、亡くしてから、彼の、世界は、この、電車だけに、なった。君子とは、この、電車で、出会った。若き日の、田村が、運転する、電車に、毎朝、乗ってくる、彼女に、恋を、し、そして、結ばれた。結婚してからも、君子は、休みの日には、よく、この、電車に、乗って、終点まで、往復した。「あなたの、運転する、電車が、いちばん、好き」。潮の、匂いの、する、車内で、そう、微笑んだ、君子。その、面影が、いまも、座席の、隅々に、宿っているようで、田村は、この、電車を、手放すことが、どうしても、できずに、いた。

最後の、運行を、前に、車庫を、訪れたのは、地元の、若い、女性、瀬戸だった。彼女は、路面電車の、保存を、訴える、市民団体の、代表だった。「田村さん。私たち、諦めて、いません」。瀬戸は、目を、輝かせて、言った。「〈潮見線〉を、観光遺産として、残す、計画が、あるんです。クラウドファンディングで、資金も、集まりつつある。あと、必要なのは、この、電車の、"顔"です。六十年、この、線を、守ってきた、伝説の、運転士、田村さん。あなたが、先頭に、立ってくれれば、市も、動く。……この、電車を、未来へ、遺せるんです」。