実験都市の少女
都市の規律に従うか、自由を求めて逃げるか、少女は迫られる。
Beginning
実験都市〈アルカ〉では、すべてが、完璧に、管理されていた。空でさえも。頭上、はるか高くに架かる、巨大な、透明ドームが、天候を、光を、そして、時間そのものを、統制している。朝七時に、白い光が、灯り、夜九時に、それが、静かに、翳る。十七歳の、リナは、生まれてから、一度も、その、規則正しい、光のリズムから、外れる、暮らしを、知らなかった。〈アルカ〉の、住民は、皆、幸福だった。少なくとも、そう、教えられて、育った。
リナの、一日は、分刻みで、定められていた。決められた、時間に、起き、決められた、食事を、摂り、〈適性教育所〉で、決められた、課程を、学ぶ。感情の、揺らぎは、手首の、生体端末で、常時、記録され、規定値を、超えると、〈調律〉と、呼ばれる、投薬が、行われた。悲しみも、怒りも、過剰な、喜びさえも、〈アルカ〉では、"不安定"として、抑制された。住民は、皆、穏やかで、従順で、そして——どこか、空ろな、目を、していた。リナ自身も、その、一人だった。何かが、おかしいと、感じたことなど、一度も、なかった。その、日までは。
異変は、〈適性教育所〉の、旧棟の、地下で、起きた。立ち入りを、禁じられた、その、区画に、リナは、偶然、迷い込んだ。埃を、かぶった、古い、資料の、山。その、なかから、彼女は、一枚の、写真を、見つけた。色褪せた、それには——見たことの、ない、光景が、写っていた。ドームの、ない、空。どこまでも、青く、広がる、天。白い、雲。そして、地平線の、彼方まで、続く、緑の、大地。〈アルカ〉の、壁の、外に、こんな、世界が? リナの、心臓が、初めて、規定値を、超えて、高鳴った。手首の、端末が、警告音を、鳴らした。