TellAria

祖父の遺した暗号

真実を家族に明かすか、墓まで持っていくか、青年は迫られる。

Beginning

祖父の、葬儀が、終わって、三日目の、夜だった。僕は、祖父の、古い書斎で、遺品の、整理を、任されていた。八十七年の、生涯を、この、小さな町の、時計店主として、静かに、まっとうした人だった。無口で、頑固で、けれど、孫の、僕には、いつも、優しかった。書斎には、分解された、無数の、時計の、部品と、黄ばんだ、専門書が、うずたかく、積まれていた。祖父の、匂いが、まだ、そこには、残っていた。

机の、いちばん下の、抽斗は、鍵が、かかっていた。他の、抽斗は、どれも、開いたのに、そこだけが。僕は、祖父の、遺品の、鍵束を、片端から、試した。やがて、小さな、真鍮の鍵が、かちりと、合った。抽斗のなかに、あったのは、一冊の、革張りの、手帳と、その上に、置かれた、一通の、封筒だった。封筒の、表には、祖父の、几帳面な、字で、僕の、名前だけが、書かれていた。「悠(はるか)へ」。

僕は、封を、切った。中の、便箋には、たった、数行が、記されていた。「この手帳の、中身は、暗号だ。わしが、五十年、誰にも、言えなかった、あることを、記してある。解読の、鍵は、お前が、子どものころ、わしと、二人だけで、交わした、あの、約束のなかに、ある。……だが、悠。よく、聞け。これを、解けば、お前は、知らなくても、よかった、ことを、知る。解かずに、燃やす、勇気も、また、一つの、優しさだ。選ぶのは、お前だ」。