TellAria

言葉を失った街

声を使って街を導くか、自分も沈黙に身を委ねるか、青年は迫られる。

Beginning

夜明けとともに、街から言葉が消えた。

湊がそれに気づいたのは、深夜放送を終え、ヘッドフォンを外した、午前五時のことだった。彼は響野町の外れにある、小さなコミュニティ放送局の、たった一人の夜勤者だった。防音のブースの中で、一晩じゅう、自分の声だけを聞いて過ごす仕事。だからこそ、彼は「それ」の訪れに、気づかなかったのかもしれない。

局の玄関を出た湊を、奇妙な静けさが包んだ。通勤の時間だというのに、街には、話し声が、一つもなかった。交差点で、一人の男が、口をぱくぱくと動かしていた。何かを叫ぼうとしているのに、そこから漏れるのは、意味をなさない、うめき声だけだった。パン屋の店先では、女将が、配達伝票を、逆さまに持って、じっと見つめていた。その紙の上の文字が、まるで、ただの虫の這った跡のように、彼女には見えているのだ。