海辺の写真館
過去の真実を暴くか、思い出を守るか、女性は迷う。
Beginning
祖父が、遺した、その写真館は、潮の、匂いの、しみついた、古い、建物だった。
「汐入写真館」。海辺の、小さな町の、坂の途中に、五十年以上、その、看板を、掲げてきた。半年前に、九十歳で、亡くなった、祖父、修一が、生涯を、かけて、守った、場所だ。写真家に、憧れて、東京で、暮らしていた、わたしは、身寄りの、なくなった、この、写真館を、継ぐために、生まれ育った、この町へ、戻ってきた。
祖父は、無口で、やさしい、人だった。町の、人々の、結婚式や、七五三や、家族写真を、半世紀にわたって、撮りつづけた。誰からも、慕われる、名物写真家。それが、わたしの、知る、祖父の、すべてだった。