TellAria

記憶を売る店

つらい記憶を手放すか、それと共に生きるか、女性は迷う。

Beginning

その店は、路地の、行き止まりに、ひっそりと、あった。

「記憶堂」。すりガラスの、扉に、そう、記されている。うわさでは、この店では、いらなくなった、記憶を、売り買いできるのだという。楽しかった、旅の、思い出を、金に、換える者。他人の、幸せな、記憶を、買って、味わう者。そして——忘れて、しまいたい、つらい、記憶を、手放しに、来る者。詩織が、この店の、扉を、押したのは、まさに、その、最後の、目的の、ためだった。

店内は、うす暗く、無数の、小瓶が、棚に、並んでいた。どの、瓶にも、淡く、光る、液体のような、ものが、揺れている。あれが、だれかの、記憶なのだろうか。奥の、カウンターに、白髪の、店主が、静かに、座っていた。年齢は、よく、わからない。ひどく、老いているようにも、まだ、若いようにも、見える、ふしぎな、風貌の、人物だった。