深夜食堂の客
客の事情に踏み込むか、ただ食事を出すか、店主は迷う。
Beginning
その食堂は、日付が、変わるころに、暖簾を、出す。
繁華街の、裏通り。酔客の、喧騒が、遠のいた、路地の、いちばん奥。「めしや」とだけ、書かれた、色あせた、看板の、下で、小さな、引き戸を、開けると、カウンターだけの、狭い、店内が、あらわれる。夜が、明けるまでの、数時間だけ、この店は、灯りを、ともす。
店主は、無口な、男だった。歳のころは、六十がらみ。顔の、左に、古い、傷跡が、ある。過去に、なにが、あったのかを、語る、ことは、ない。ただ、黙々と、客の、注文を、聞き、あるものを、こしらえて、出す。それだけが、彼の、流儀だった。